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東京地方裁判所 昭和57年(タ)33号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

浦部信児

被告

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

鈴木修

紙子達子

主文

一  原告と被告とを離婚する。

二  原・被告間の二女雪子(昭和四三年五月六日生)の親権者を被告と定める。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一、三項同旨

2  原・被告間の二女雪子(昭和四三年五月六日生)の親権者を原告と定める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原・被告は、昭和四〇年一二月二七日婚姻の届出を了した夫婦であり、両名間には長女月子(昭和四〇年一一月二七日生)と二女雪子(昭和四三年五月六日生)が生まれた。

2  原・被告は、婚姻後東京都下で共同生活を営んできたが、原告がかねて経営していた事業が経営不振に陥つたため、新聞雑誌編集の経験をいかした新分野の職業開発を企図し、昭和四九年六月ころ、自己の故郷である岡山県に単身転居して地方紙「おかやまけん」の編集発行事業を始め、昭和五二年一一月右地元で原告の親族発起にかかる甲野観光株式会社設立とともに監査役に就任し、同社の事業内容たる不動産管理の実務を担当して現在に至り、職業的にも安定し、住所も定着している。

3  原告は、この間被告に対し再三原告との同居を懇請説得してきたが、被告は頑くなにこれを拒絶し、共同生活への意欲を失つている。

4  原告は、被告に対し婚姻費用を分担し、これを履行し続けてきた。

5  原・被告らの別居はすでに長期間を経過し、被告は肩書住所地に土地建物を購入し、同居の見込みもなく、また同居意思も存在しないことが明白である。

6  現在、原・被告間の婚姻関係は完全に破綻し形骸化している。

7  以上のとおり、原・被告間には婚姻を継続し難い重大な事由があるから原告は被告との離婚を求める。

8  なお、前記二女雪子の親権者は原告と定めるのが相当である。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原・被告が婚姻後東京都下で共同生活を営んできたこと、被告が昭和四九年六月ころ、単身岡山県に転居したことは認めるがその余の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同6ないし8の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告は、被告に対し、本訴に先立ち離婚請求訴訟を提起し、昭和五四年五月二九日言渡された最高裁判所の判決により、その離婚請求が排斥され、右訴訟の第一審及び第二審判決において、被告の同居拒絶について被告に正当な理由があり、婚姻の破綻もない旨判示されて確定している。本訴の離婚請求原因も右前訴の請求原因とほぼ同旨であるところ、右上告審判決以降も右判決の判断を基本的に覆すような事実は生じていない。

したがつて、原告の本訴請求は棄却されるべきである。

2  原告は、被告と一方的に別居した後、訴外乙山良子と肉体関係を持つに至り、そのため、原告は被告との婚姻関係を終了させようと決意し、本件離婚の訴を提起したものである。

したがつて、仮に、原・被告間の婚姻が破綻しているとしても、その責任は原告の右不貞行為にあり、有責配偶者であるから原告の本訴離婚請求は棄却されるべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は争う。

2  同2の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一〈証拠〉を総合すると次の事実が認められる。

1  原告と被告は、昭和四〇年一二月二七日婚姻し、両者の間には昭和四〇年一一月二七日長女月子が、昭和四三年五月六日二女雪子が各出生した。

2  原告と被告は、婚姻後東京都内で共同生活を営んできたが、原告は業界新聞の記者を辞した後友人らと会社を設立し印刷の下請等をしたがいずれも失敗したため、かつての記者の経験を生かし、郷里の岡山県に帰つて地方誌を発行しようと企図し、昭和四九年六月ころ、岡山県に単身帰郷してその準備を始めた。原告は、そのころから被告に対し岡山県内に転居するよう話をもちかけたが、話し合いがつかないまま、同年七月原告のみ岡山市内に転居し、以来原・被告間に別居が始まつた。その後、原告は被告に対し岡山県下での同居を求めたが被告がこれを拒絶したため現在まで別居が継続することになり、原告は、昭和五一年一一月被告に対し被告の同居拒絶と婚姻の破綻を理由に離婚訴訟を岡山地方裁判所津山支部に提起した。右離婚訴訟は第一、二審とも原告が敗訴し、昭和五四年五月二九日上告審において原告の敗訴が確定した。

3  右離婚訴訟における原告敗訴の理由の要旨は、原告の収入はいまだ不安定であつて被告及びその二児の生活を支えるには不十分であり、他面被告は東京において地方公務員として原告に比し多額の、安定した収入を得て二児とともに生活しており、結局被告には、原告の同居請求を拒絶するにつき正当の理由があること、また、原・被告間の愛情喪失による婚姻関係の破綻はなく、婚姻を継続し難い重大な事由があるとは解し難いとするものであつた。

以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

原告は、本訴において、前記離婚訴訟における離婚原因とほぼ同一の事由を主張するところ、右のとおり、すでに原告の敗訴判決が確定しているから、原告は、本訴において、前記離婚訴訟における第二審の口頭弁論終結時までに生じた事由を再び主張することは許されないものといわなければならないが、原告は、その後の事情をも主張していることが明らかであるから、以下これを検討することとする。

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告の地方誌の発行は、中断されており、これによる収益はないが、原告がその設立に関与した株式会社甲野観光は、昭和五三年一一月鉄骨四階建の○○観光ビルを建設し、昭和五五年に鉄骨三階建一棟を完成させて、これらを第三者に賃貸して同社の事業内容たる不動産管理の営業をするようになり、原告は、同社から月約一五万円を得ているが、いまだ必ずしも収入が安定しているとはいい難い。

2  被告は、前記離婚訴訟の上告審判決後、原告を相手方として養育費の支払を求める調停を三回申立て、原告はこれに応じてそれぞれ合意が成立し、当初は月四万円、次いで五万円、現在は月六万円を原告において被告に送金を続けている。

3  被告は、原告に相談しないまま肩書住所地に住宅を購入して、同所において二女らとともに生活し、自ら岡山に行つて原告と同居する意思はすでにない。

4  被告は、昭和五三年秋ころ、原告が訴外乙山良子と同棲しているのではないかと疑いを抱き、昭和五六年に同訴外人に対して損害賠償請求訴訟を提起した(なお、右訴訟は、第一、二審とも被告が敗訴している)。

5  現在、原告は、上京して原告と同居する意思はなく、また、被告に対する愛情も全くなく、離婚意思は固い。また、被告も前記のとおり、肩書住所地に住宅を購入しており、岡山に行つて原告と同居する意思はなく、はたして原告と婚姻生活を継続していこうとする意思があるかどうか極めて疑わしいところがある(なお、被告は、昭和六一年五月二二日の当審弁論兼和解期日において、原告の金銭の支払を条件に離婚をしてもよい旨表明している)。

以上の事実が認められ、〈証拠〉中右認定に反する部分及び原・被告各本人尋問の結果中右認定に反する各供述部分はいずれもそのまま採用することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によると、前記離婚訴訟の判決以後、原告側において被告らを受け入れるに十分な態勢が整つたものとも言えず、また、被告と同居するのに格別努力を示したことを窺わせる事情も見い出し難いと言わざるを得ないが、他方、被告においても特段同居に向つて努力した形跡もなく、かえつて、肩書住所地に住宅を購入して、同所での永住の意向を示し、すでに自ら岡山に転居して同居する意思を喪失しているものと言わざるを得ない。これに、前記離婚訴訟の経緯、別居の期間、原告の被告に対する愛情が完全に喪失していること、被告の原告に対する愛情にも疑しいところがあつて婚姻継続を真摯に望んでいる様子もみられないことなどを考慮すると、現在原・被告間の婚姻は完全に破綻しているものというべく、もはや、その回復は期待し難いものといわなければならない。しかして、破綻に至つた主たる責任が原告または被告のいずれにあるともこれを容易に決し難いのであつて、少くとも婚姻破綻の責任が主として又は専らに原告にあるものとは言い難いところである。なお、被告は原告の訴外乙山良子との不貞を主張するが、前記〈証拠〉に照らすと本件全証拠をもつてしてもなおこれを認めるに足りない。しかして、原・被告間には民法七七〇条一項五号にいう婚姻を継続し難い重大な事由があるものと認めるのが相当であり、原告の本訴請求は理由がある。

また、二女雪子の親権者は現在監護養育にあたつている被告と定めるのが相当である。

二以上のとおり、原告の本訴請求を正当としてこれを認容し、二女雪子の親権者を被告と定め、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官髙野芳久)

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